北岳の花(1)
日本で一番高い山は誰でも知っている富士山。では、二番目はと問われて答えられる人はどれぐらいいるだろうか。山好きの人はともかく、一般の人では恐らく一割以下ではないだろうか。そんな不遇の山、北岳はとても魅力のある山である。
北岳山荘付近からの山頂
まず第一はその高さ。3193mという日本第二の高峰。
第二はその姿、形
第三は植物の多さ
まだあげていけばキリがないほどあるが、植物に絞って話を進めよう。
北岳は日本有数の高山植物の宝庫であり、キタダケ○○と名が付くものが、9種(山渓ハンディ図鑑)もある。そのすべてが固有種ではないが、稀少種である。例えばキタダケソウ、キタダケトリカブト、オオハクサンサイコ(以上固有種)、キタダケナズナ、センジョウアザミ、キタダケヨモギ、アカイシミヤマクワガタ、ハハコヨモギ、タカネビランジ、タカネマンテマ、ミヤマハナシノブ(以上稀少種)等々あげられる。
ミヤマタネツケバナ(アブラナ科)
田んぼのあぜ道に見られるタネツケバナ。その花が咲くころに種モミをまくところから来た名前。そんなイメージしかないタネツケバナが北岳山荘の近くではミヤマタネツケバナとして岩の間に咲いていた。
イワウメ(イワウメ科)
岩の間にマットを敷いたように、身を寄せ合い生きている岩梅。寒さ、風に耐えやすい小さな体だが、れっきとした常緑低木である。
ハクサンオミナエシ(オミナエシ科)
花の一部が突き出す距が見えない。あるとしてもごく短い。コキンレイカ(小金鈴花)ともいう。距が目立つのがキンレイカ。
ソバナ(キキョウ科)
ソバは急な山の道、斜面をいう。そんなところに生えるから。ナ(菜)とつくものは食べられることを意味する。ちなみに、食べるソバは種子が尖った辺を持ち、麦の代用になったので蕎麦(そばむぎ)といった。その後麦が省略されて蕎になった。
ミヤマシャジン(キキョウ科)
ヒメシャジンと同じといわれるが、萼片に鋸歯(ギザギザ)が無いものをミヤマシャジンとしている。しかし、同じ所に両者が生育していることもある。右の花の萼片がよく見える。
イワギキョウ(キキョウ科)
これは細い萼片に鋸歯があり、花冠に毛が無い。
チシマギキョウ(キキョウ科)
こちらはやや広い萼片に鋸歯が無く、花冠の縁に毛がある。違いが分かったかな?
ミヤマアキノキリンソウ(キク科)
アキノキリンソウは、花が円錐状に長くつくが、こちらは花茎の先にまとまって付く。詳しく見ると、花を囲む総苞(うろこ状のもの)に違いがあるという。
センジョウアザミ(キク科)
アザミの分類は難しい。分布域などを考えて、稀少種のセンジョウアザミとした。
フジアザミ(キク科)
フォッサマグナ(日本列島を東西に分ける地帯)特有の種といわれ、富士山周辺で見られる。頭花(花の集まり)の直径が5cmもある大きなアザミ。
ミネウスユキソウ(キク科)
ウスユキソウの高山型で真ん中にある頭花(花の集まり)が少ない。が、中間形もある。白色の綿毛を葉の上に薄く積もった雪にたとえた。
ハンゴンソウ(キク科)
反魂草は死者の魂を呼び返す意味で、薬草として使われたことから。高いものは2mぐらいにもなる。
タカネコウリンカ(キク科)
コウリンカは長い舌状花が周りにダラッと下がるが、この高山型では、舌状花は周辺部にこじんまりと並んでいる。紅輪花で花色と形から名付けられた。
ヤマタイミンガサ(キク科)
タイミンガサモドキと牧野図鑑にはある。大きな葉を傘に見立て、大明傘とつけたらしい。
シラネヒゴタイ(キク科)
次に掲げるタカネヒゴタイよりも頭花が少なく、1個しか付けないものをいうらしい。葉の形も少し異なる。ヒゴタイの語源は不明。
タカネヒゴタイ(キク科)
頭花が2~5つくものをタカネヒゴタイとするのに従ったが同じとするものも多い。
タカネニガナ(キク科)
高嶺苦菜で、苦いことから。ミヤマイワニガナは細い走出枝を長く伸ばして増えていく。
ミヤマコウゾリナ(キク科)
全体に褐色の剛毛があり、ザラザラする感触をカミソリにみたてた、剃刀菜(かみそりな)から。
マルバダケブキ(キク科)
丸葉岳蕗。見ての通り蕗の葉を思わせる大きな葉と、高さ1mを超える姿はよく目立つ。
タカネヤハズハハコ(キク科)
全体に白色の綿毛が密生するのでタカネウスユキソウともいう。ヤハズ(矢筈)は弓の矢の切れ込みをいうが、これを使う意味がない。
キタダケヨモギ(キク科)
全体に白色の絹毛を密生。南アルプスだけにある稀少種。
タカネヨモギ(キク科)
ヨモギに見られる絹毛が無いが、はじめは全体に絹毛を密生するそうだ。
キク科の特徴である頭花(頭状花ともいう)の中に小さな花(小花)が集まっているのがわかる。
ハハコヨモギ(キク科)
全体に灰白色の絹毛を密生している。花茎の先に10数個の頭花が集まり、1つの頭花の中にはまた何十個もの小花が集まっている。南アルプスと木曽駒が岳に生育。
ミヤマオトコヨモギ(キク科)
これも若い時には絹毛が生えているらしい。